2009年9月16日水曜日

思金神 その1

多力雄神は掖邪狗のようで、彼は卑弥呼の甥のだと思われます。それに対し思金神は難升米のように思われます。表は天の岩戸以後、天孫降臨以前に活動する高天が原の神と、『古事記』にその神が出てくる回数を比較したものですが、思金神の回数が多いことに注意が必要で、回数が多いほど活発に活動していることを表し、神格が高い傾向があります。

          回数             回数           回数        
天照大御神   15    邇々芸命      4     天菩比命     3
高御産巣日神  11    天津国玉     2     天若日子    18
思金神        8    天石門別神    4     雉          6
天津麻羅       1    忍穂耳命     4     伊都之尾羽張  3

伊斯許度売命   3    須佐之男命     2     建雷之男神    4
玉祖命        3    大気都比売神   3     天迦久神      2
天児屋命      5    神産巣日神     1    天鳥船神      2
布刀玉命       6    万幡豊秋津師比売 1  天津久米神   2
多力男神       4    天日明命      1     登由宇気神    1
天宇受売命     8    天忍日命      2
猿田毘古神     5

例外は天若日子の18回で、その多くは雉の6回とペアになった天若日子自身の物語で、天若日子の神格が高いというわけではありません。また天宇受売の8回も猿田毘古の5回とペアの物語になっているものが多いが、『古事記』神話を伝えた稗田氏は天宇受売、猿田毘古の子孫とされています。

天宇受売の8回と猿田毘古の5回には稗田氏の始祖伝承が加わっていると考えるのがよいようです。『古事記』の神話は稗田氏など天神系氏族が伝えたもののようです。これらを除くとアマテラスの15回、高御産巣日神の11回、思金神の8回が他を圧しています。

この天照大神は卑弥呼ではなく台与ですが、後に述べるように高御産巣日神は大倭(だいわ)です。ですからこの二神の回数が多いのは当然のことで、この二神は天若日子を出雲に派遣する指令を出して以後、ペアで神々に指令を出す指令神として活動します。天照大神を差し置いて高御産巣日神だけが単独で指令を出している場合も多い。

思金神は天の岩戸以前には活動の見られない神で、天の岩戸以後には天照大神・高御産巣日神の指令を受けて、それを具体化する働きをしています。それも天照大神よりも高御産巣日神の指令を受け、それに応答していることが目立ちます。思金神は八意思兼神とも呼ばれるように、深く謀り、遠く思慮する神だと考えられています。

私はこの八意思兼神という神名が、難升米を正確に表現していると思っています。思金神は天の岩戸から天孫降臨にかけて八百万神の筆頭として活動しますが、言ってみれば政治家なら官房長官、軍人なら参謀総長のような役回りであり、天孫降臨の段では特別視されています 『古事記』 には次のように記されています。

「此の鏡は専(もぱ)ら吾が御魂(みたま)と為て、吾が前を拝(いつ)くが如(ごと)いつき奉(まつ)れ。次に思金神は前の事を取り持ちて政為(まつりごとせ)よ」とのりたまいき。此の二柱の神は、さくくしろ、いすずの宮にに拝(いつき)き祭る

二柱の神とは八咫の鏡と思金神で鏡は天照大神のことであり、いすずの宮は五十鈴川のほとりにある宮という意味で伊勢神宮のことです。天照大神と思金神が伊勢神宮に祭られていることが述べられていますが、伊勢神宮に思金神が祭られているのには意味がありそうです。

「前の事を取り持ちて政為(まつりごとせ)よ」とは天照大神の祭事、あるいは政事を引き継いで執り行うようにという意味ですが、この部分は天孫ホノニニギが降臨する部分ですから、本来なら指令は邇々芸命(『日本書紀』では瓊々杵尊)に対して出されるはずのものです。それが思金神に対して出されています。ここではホノニニギよりも思金神の方が重視されているのです。

天照大神は台与であり、後に述べるがホノニニギは台与の後の男王であり、ホノニニギが高千穂の峰に降臨することは高天原の主がいなくなるということで、天孫降臨の後の高天が原の留守番役が思金神だというのでしょう。

思金神は八百万の神の筆頭であり、天照大神・高御産巣日神も八百万の神も、思金神の発案に従って行動しているように思えます。思金神は神話の中で特異な立場にありますが、倭人伝中の人物にも同じように特異な立場の人物がいます。

       回数  官位          授けられたもの
難升米    7   率善中朗将     銀印青綬、黄幢、詔書、告喩
倭女王    4               詔書、印綬
卑弥呼    4   親魏倭王      詔書、金印紫綬
壹與      3               告喩
都市牛利  4   率善校尉      銀印、青綬
以聲耆    1   率善中朗将    印綬
掖邪狗    3   率善中朗将    印綬
載斯烏越  1

表は倭人伝に登場する人物の名前とその回数ですが、難升米がとびぬけて多く官位も高く、黄幢、詔書を授けられるなど特別な働きをしています。思金神と難升米の性格がよく似ていますが、思金神は難升米だと思ってよいようです。

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